よく使う法令検索ツール(その2・終)官報検索、議院HP及び日本法令索引
よく使う法令検索ツールをまとめます。こちらの記事の続きです。
①e-Gov法令検索(無料)
②Super法令Web(有料)
-----以上前回-----
-----以下今回-----
③官報発行サイト(無料)
内閣府のウェブサイトです。官報の発行に関する法律(令和5年法律第85号)の施行(令和7年4月1日)に伴い、官報はこちらのウェブサイトで発行されることとなりました*1。
官報の正本はこのサイトに掲載されているPDFですが、
・このサイト自体には検索機能がなく、PDFも1ページずつしかダウンロードできない、
・保護がかかっていて*2ページの結合等の編集ができない、
という特性があります。
そのため、
・今日は何が公布されたのかな~と思ってさっと一覧したいとき
・公布された日は分かっていて無料のサイトでさっと閲覧したいとき
くらいが使う場面になろうかと思います。
掲載期間は原則発効から90日間ですが、法令についてはこちらのサイトからでもずっと閲覧できるようです*3。
④官報情報検索サービス(有料)
国立印刷局が提供しているサイトです。
キーワード検索をしたいとき、参照条文として官報のデータを(ページ結合など加工して)使いたいときは、③ではなくこちらを使います。
検索方法としては日付検索と記事検索がありますが、基本的に記事検索を使います。日付検索で出力できるPDFは、③と同様にページ単位であり参照条文としての用途に向かないからです。
記事検索で出力できるPDFは、案件単位です(法律であれば、その法律が載っているページ一式(かつ、他の記事が同じページに重なる場合はその法律の部分のみ)が出力されます。)。
記事検索の検索方法は3種類あります。主な検索条件をあわせて掲げます。
⑴簡易検索…キーワード+期間指定
→さっと検索したいときに(正直、たいてい⑵を使うのであまり使用していないです。)。
⑵詳細検索…キーワード+種別(法律、政令、省令…)+期間指定*4
→法律/政令など対象を絞ってキーワードで検索したいときに。
⑶法令等号数検索…法令番号
→調べたい一部改正法令が既に分かっていて、法令番号も判明しているときに。
検索方法のうち、⑵⑶について詳述します*5。
⑵詳細検索のポイントは次のとおりです。
・キーワードについては、検索式での検索が可能です。検索結果の絞り込みに使えます。
・種別の指定では、法律、政令、省令…と検索対象を限定することができます。例えば改め文の用例を調べたい場合は法律のみ(あるいは法律と政令のみ)にチェックを入れます。
・期間指定については、デフォルトが直近1年間になっていると思いますが、全然足りないので、昭和22年5月3日からその日までにしたり、最近の用例のみ調べたい場合は今世紀以降にしたりします。正直面倒なのですが、何らか設定する必要があります。
⑶法令等号数検索のポイントは次のとおりです。
・この検索方法は、法令番号が分かっている状態で使うものなので、法令番号に合わせて検索項目を入力していきます。
・期間指定が必要ですが、法令番号が分かっているということは既にどの年の法令か分かっているということなので、始点も終点も同じ年を入力します。
・省令以下であれば「○○省令」の〇〇の部分も「省庁名等」として指定することができます。
法令番号が分かっている場合とは?と思われるかもしれませんが、改正附則を見ていて元々何の法律の附則だったのか知りたいとき、Super法令Webの改正履歴で発見したとき、名前だけ把握した場合であって日本法令索引を使って法令番号を調べた上で改め文を調べたいとき、などがあり得ます
記事検索での検索結果は、最初はHTML版が表示されますが、タブを選択するとPDF版を表示してダウンロードすることができます。
⑤衆議院HP(無料)
法令検索用のサイトではないのですが、サイト内検索で法律の改め文を調べることができます。
検索ツールとしては、有料の④が使えない場合の代替手段になるのではないかと思います。
トップページの右上の検索窓から検索した後、検索結果画面の絞り込みで、「議案」か「制定法律」を選びます。
⑥日本法令索引(無料)
国立国会図書館が提供しているサイトです。条文ではなくて、改正履歴や国会審議録など、法令そのものについての情報を調べたいときに使えます。
個人的には、調べる対象としたい法律は分かっているけれども、他の検索ツールなどで調べるには情報が足りていないときに、追加の情報を取得して踏み台にするような形で使っています(例:一部改正法令の題名は分かるけど法令番号が分からない→日本法令索引で法令番号を調べて官報情報検索サービスで法令等号数検索。)。
体感、知名度は低い気がしていますが、過去の情報を調べたいときにけっこう強力なので、広めていきたいです笑
デフォルトはキーワード検索です。詳細検索からは法令番号でも検索をすることができます。
検索結果から法律をクリックすると、主に次のような情報を見ることができます。
(上部の概要)
・法令番号
・国会の提出回次(第○回国会)
・閣法(内閣提出法案)、衆法(衆議院の議員立法)、参法(参議院の議員立法)の別
・提出年月日、成立年月日、公布年月日
(下部のタブ)
・法令沿革(改正履歴)
・審議経過(国会会議録へのリンク)
国会の提出回次は、各府省庁HPで法案の参考資料を調べるときに使えます。
法令沿革は、今ある溶け込み条文がどのような経緯でそうなったのか、一部改正法令を探したいときに当たりをつけるのに使えます。
審議経過は、法案審議の際の議論を探すのに使えます。使い方は次のとおりです。
・「審議経過」をクリックした後、「審議経過が含まれている会議録を対象として検索する(国会会議録検索システム)」をクリックすると、国会会議録検索システムに飛びます。
・リンク先でキーワード検索をすると、その法律の法案審議のときの国会会議録から、そのキーワードに合致するものを検索結果として出力してくれます。
法令検索ツールについては以上です。やりたいことによって便利なツールが異なるので、うまく使い分けるのにお役立ていただければ幸いです。
長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
*1:国立印刷局HP官報について 独立行政法人 国立印刷局参照。
*2:真正性を確保するため。登記申請の際にこの官報のデータを添付するといった使い道があるようです(法務省:商業・法人登記のオンライン申請についての注10参照。)。
*3:官報発行サイトご利用に当たって - 官報の「公開対象の記事について」参照。
*4:他にも指定できる条件はありますが使ったことがありません。
よく使う法令検索ツール(その1)e-Gov法令検索及びSuper法令Web
よく使う法令検索ツールをまとめます。紹介するものは次のとおりです。
-----今回ここまで-----
--------以下次回--------
- ③官報発行サイト(無料)
- ④官報情報検索サービス(有料)
- ⑤衆議院HP(無料)
- ⑥日本法令索引(無料)
主な用途として、ざっくりこんな感じで使い分けています。
・現行条文を調べたい→①
・過去の条文も調べたい→②(、最近の時点であれば①も対応)
・最新の公布法令を調べたい→③、④
・改め文を調べたい→④(、⑤)
・改正履歴など法令そのものについての情報を調べたい→⑥
有料のものは職場で契約してあったり、データベースを使わせてくれる図書館で利用したりするイメージがあります。契約の有無やどうやったら使えるかは、経験者や、法規係的なアカウント管理をしてそうな者に聞いてみましょう。
主な使い方とあわせて詳述していきます。
①e-Gov法令検索(無料)
デジタル庁が公開している、法令データが検索できるサイトです。日常的な条文の検索に使っています。
法令名やキーワードで検索することができます。
キーワード検索ではチェックボックスで次のような絞り込みをかけることができます。
- 法令種別→「法律」から探す、「法律」と「政令」から探す、、、
- 対象構造→「制定文」から探す、「制定附則」と「改正附則」から探す、、、
附則から探したいときとは例えば…
-
- 下位法令を起案していて、制定文の書き方の用例を検索したいとき。
- 施行期日や経過措置の用例を検索したいとき。
検索式での検索にも対応しています。AND検索(単語をスペースで区切る)のほか、NOT検索もできます(OR検索はあまり使ったことがありません。)。
また、2026年3月15日の改修でワイルドカード検索もできるようになりました。
- NOT検索→単語の前に半角!を付します。
- 用例検索をするため単語を入れる→大量に出てきた検索結果の中から関係なさそうなものをNOT検索で排除して絞り込んでいく…という感じで使えます。
- ワイルドカードカード検索→単語同士を半角「*」でつなぐことで、検索ワードがその順番で登場する例を探すことができます*1。
- 例えば、「大臣 機構 せる」の検索結果は533件、「大臣*機構*せる」の検索結果は478件で(2026年3月22日時点)、順番を指定したぶん結果が減って絞り込めています。
- 「Aが【主語】Bに【目的語】Cする【作用】」のような構造を特定の組合せで調べたいときに使っています。
~~~~~ワイルドカードによる検索の例~~~~~
「大臣*機構*せる」で検索すると例えばこのような検索結果が出てきます。
○健康保険法(大正11年法律第70号)
(機構が行う収納)
第二百四条の六 厚生労働大臣は、会計法(昭和22年法律第35号)第7条第1項の規定にかかわらず、政令で定める場合における保険料等の収納を、政令で定めるところにより、機構に行わせることができる。
2 (略)
一方で、「大臣 機構 せる」(ワイルドカードなし)の場合は、このようなものも検索結果に含まれます。
○水産資源保護法 (昭和26年法律第313号)
(受益者の費用負担)
第二十四条 機構は、溯河魚類のうちさけ又はますを目的とする漁業を営む1が、前条第1項の人工ふ化放流により著しく利益を受けるときは、農林水産省令で定めるところにより、農林水産大臣の承認を受けて、その者にその実施に要する費用の一部を負担させることができる。
つまり、後者では【機構→大臣→せる】のような結果も含まれて出てくるのに対し、前者では【大臣→機構→せる】のみに絞り込めています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ふつうに検索をかけていると探したかったものと違う結果も大量にヒットしてノイズになるので、絞り込みを活用すると目当ての用例を探すのに効率的です。
条文の施行時点を選ぶこともできます。施行時点は、PC版だと左上の窓から確認・選択することができます。
ただし、過去時点の条文については近年のもののみ(具体的にはおおむね平成29年度以降)なので、それより古いものは②Super法令Webを参照することになります。
なお、e-Gov法令検索の検索窓ではなく、Googleの検索窓から法令名を検索して条文を表示する場合は施行時点に気を付けましょう*2。Gogleの検索結果だとたまに現行ではない施行時点がヒットすることがあるからです。
このほか、一つの法律の条文全体を一つのページで表示してくれるのもe-Gov法令検索の特徴だと思います(②Super法令Webとかだと長い法律は複数ページに分けて表示される。)。一つの法律の中で、「A」という言葉が使われている条文をページ内検索で探したいときに、ページが分かれていると横断的に検索できないからです*3。ただし、e-Gov法令検索では一部改正附則が最初は非表示の設定になっているため、一部改正附則も含めて法令中の文言を検索したい場合は左下の窓で「全表示」を選択しておくべきことに注意です。
②Super法令Web(有料)
「現行日本法規」(いわゆる黒本)の出版社である株式会社ぎょうせいが提供しています。過去のことを調べたいときに使っています。
特に次のような場合にはSuper法令Webが有効だと思います。
- 過去時点の条文を表示したい…条文を表示した後に「沿革」タブで施行時点を選べます。e-Gov法令検索で収録されているものより古い条文も収録されています。
- 条文ごとの改正履歴を知りたい…各条文の後に「令○法○○・一部改正」(=令和○年法律第○○号により一部改正された)という改正履歴が掲載されています。ある条文がいつの改正で今の文言になったのかを調べたいときに使えます。また、条文番号の繰上げ・繰下げも載っているため、過去の文献で引用されている条文を特定するのにも使えます。
過去時点の条文については、これも昭和時代などの古いデータは収録されていないため、制定当初の姿を見たくて④官報情報検索サービスを使う必要がある場合もあります。
改正履歴については、
・そこから判明した法令番号を使って「沿革」タブから改め文を表示したり(「令和○年○月○日法律第○号」の表示が青くなっていれば飛べます)、
・④官報情報検索サービスや⑥日本法令索引といった他の検索ツールに打ち込んで更なる情報を調べたり、
という風に使えます。
また、廃止されている法令も調べることができます(最近廃止されたものであればe-Gov法令検索でも表示できますが。)。
具体的には、検索窓の下の「詳細を指定して検索」から「廃止」にチェックを入れて検索語を入れて検索します。
全部改正された法律の全部改正前の条文を見たいときも、「沿革」ではなくこちらの「廃止」から検索をします。
なお、ブラウザの設定の問題として、ポップアップがブロックされているとボタンをクリックしても何も出てこないということがあるので、うまくいかないときはブラウザのアドレスバーのあたりとかを見ることをおすすめします。
力尽きたので官報検索などの紹介は他日を期したいと思います。
*1:単語同士を半角「?」でつなぐことで、さらに検索ワード同士の間の文字数が?の数と一致するものを調べることができます。すなわち、「A???B」であればAとBの間が3文字であるものの検索結果を返してくれます。
*2:ではGoogleで法令名を検索するのがダメかというとそういうこともなく、e-Gov法令検索では完全一致でないと検索できないので、「ちゃんと検索しているはずなのになぜか何もヒットしない(実は「等」が抜けていた。)。」「この法律の題名って「等」あったっけ?」(※)「なんかこんな感じの名前だった気がするんだけど…」みたいなときはGoogle検索じゃないと探しにくいということがあります。(※20260309「等」の有無が分からないなら「等」の前で切って検索すればよい旨のコメントをいただき例を差し替えました。)
*3:Super法令Webでも、一度条文データのファイルをダウンロードすれば法令中の文言を横断的に検索できます。複数のよく参照する法令についてまとめて横断的に検索したい場合は、rtfでダウンロードしておいたファイルを一つにまとめておくと、こちらの方が便利な場合もあります。ただし、ダウンロードした時点で条文のバージョンが固定されるため、バージョン管理には気を付ける必要があります。
新たに職員となった人のための(実務的)ブックガイド
- はじめに
- 1.文章術…公用文のルールと分かりやすい文章の書き方
- 2.法制執務…条文の読み方と法学入門
- 3.政治…政府と政党政治
- 4.EBPM…データ分析の手法
- 5.仕事術…仕事の進め方、法令に携わる仕事をする人としてのノウハウ
- おわりに
はじめに
新たに職員となった皆さん、おめでとうございます。
ある業界でブックガイドといえば、人事院が取りまとめた「若手行政官への推薦図書」(平成23年版、令和2年版)が有名であり、人格の陶冶や、あるいは広い、多角的な視点から政策を論ずるためには有意義なものだと思います。
でも、「及び」・「並びに」とか、「行政行為」という一般名詞のような顔をした講学上の概念とか、法制局審査と職権修正とか、職務の遂行に当たる際に気になることがらについては、親切な先輩/上司が参考図書を教えてくれるか、法学系のバックグランドを有している人は大学で習っているとか*1、そのようなことがなければ、自分で探すしかないのかなと思います。
ただ、そのような先輩/上司に巡り合う機会は必ずしも誰にも与えられるとも限らず、また、自力で探して実務的に役立つ本にぱっと出合えるとも限らぬので、少しでも楽に参考情報に触れて、職務の円滑な遂行に資するため、乏しい読書経験ながらも、新たに職員となった人のために役立つであろう書籍等を紹介します。
紹介するものは、大きく、次の5つの分野に分けています。忙しい社会人も通勤時間で読めるような薄い本を中心としつつ、職務において典拠としてよく使われる(上司に聞かれたときに「ここに書いてあります」って言えばだいたい通じる(はずの))書籍についても触れていきます。
- 1.文章術…公用文のルールと分かりやすい文章の書き方
- 2.法制執務…条文の読み方と法学入門
- 3.政治…政府と政党政治
- 4.EBPM…データ分析の手法
- 5.仕事術…仕事の進め方、法令に携わる仕事をする人としてのノウハウ
なお、私の乏しい職務経験からして、法令に携わる仕事に偏っており*2、政策の企画立案に係る知見に乏しいため、3.~5.が薄くなっていることについてはご容赦ください。
1.文章術…公用文のルールと分かりやすい文章の書き方
職務は、文書を作成して係長→課長補佐→課長…とクリアを取っていってセットしていくプロセスや、誰かから依頼を受けて文書を作成するあるいは誰かに依頼をして何かしてもらうための文書を作成するといったプロセスで構成されることが多いです*3。そのため、正確で分かりやすい文章を書くことが、自分にとっても、ほかの人にとっても、いいことになります。
(1)「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日文化審議会建議)
「ブックガイド」と称しつついきなり書籍ではないものを挙げるのはいかがなものか、と思いつつ、公用文の一般的なルールのみならず、伝わる文章とするための工夫(見出しの付け方、文の書き方など)がコンパクトにまとまっており、無料で誰でも読めるので、まず最初に触れてほしいドキュメントです。
なお、公用文のルールについては、職務に当たるに際して一生使うものではありますが、これを熟読して覚えるというよりかは、文書を作成又はチェックする際に「こういう用字用語には公用文のルールが何かしらあるので書籍で確認しよう」という「引っかかり」を持てることが重要であると思います。覚えていなくたって、その「引っかかり」を持つことができれば、調べて適切な表現を選び取れるのだから*4。
(2)白石『法律文章読本』(有斐閣、2024年)
この本は、(1)「公用文作成の考え方」を参考としつつ、条文の構造、基本的な法令用語の解説から、正確で分かりやすい文章を書くためのヒントまで、法的な内容を含む文章を書くために役立つ情報が詰まっています。
「はじめに」の次の記載は、私も大いに共感するところです。
…法律文章を正確で分かりやすいものとすることが、複雑化した現代における必須の課題であると考えるからである。頭脳・労力・時間は、不正確な文章や難解な文章を読み解くために使うのではなく、有益なことに振り向けるべきではないか。そうであるとすると、正確で分かりやすい文章を書く技法は、社会にとっての必須のインフラとなるはずである。
この「1.文章術」の冒頭にも記載したとおり、職務は文章を書いてほかの人に読んでもらうプロセスで構成される部分があり、そのような意味でも、正確で分かりやすい文章は、組織が機能するための「インフラ」として大切にしてほしいものであると思います。なかなか難しいものですが。
(3)本田『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日文庫、2015年)
法令審査係時代に人に教えてもらいました。公用文ルールと異なるところがあるのには注意しなければなりませんが、修飾語・被修飾語の整理や、助詞の使い方などについて、豊富な文例ととも紹介されています。
本書に触れて、日本語の構造に自覚的になって文章を書く、という意識を持てるようになった気がします。
(4)その他職務で参照する公用文関係の書籍
自分で自習用に読むというよりかは、職場に置いてあって辞書的に参照し、上司に書き方の典拠として示すような用途を念頭に置いたものを紹介します。
①磯崎『分かりやすい公用文の書き方 第2次改訂版(増補)』(ぎょうせい、2024年)
書名のとおり公用文の書き方を分かりやすく解説した書籍。一般的なルールや覚え方のtips的なことが書かれているので、公用文のルールに係る知識を整理することにも役立ちます。
②ぎょうせい公用文研究会編『最新公用文用字用語例集 改定常用漢字対応 増補版』(ぎょうせい、2022年)
これはほんとうに辞書のようなものです。「取組」って送り仮名あるんだっけ?、「(~年)ごと」はひらがな?といった「引っかかり」を抱いたときに、本書をひもといて、適切な用字用語を選択しましょう。
2.法制執務…条文の読み方と法学入門
条文の構造や法制執務用語((1))と、法学について((2)・(3))触れ、最後に業務でよく参照する書籍について紹介します((4))。
なお、環境法や社会保障法といった個別分野を学びたい場合は、当該個別分野を学ぶのに必要な基本科目(民法(のうち関係のある部分)とか行政法とか)をかじりつつ*5、有斐閣ストゥディアシリーズや、日評ベーシック・シリーズのような薄い本で全体像をつかんで、その個別分野に係る定評のある書籍を辞書的に読むと、体系的に理解しつつ法令事務に当たれていいと思います*6。
(1)法制執務・法令用語研究会『条文の読み方 第2版』(有斐閣、2021年)
たったの1,000円弱・222頁で、法令の構造から法制執務用語まで、条文を読むために必要な知識がサクッと得られます。記述も平易でサクッと読めるので、ぜひはじめに通読してほしいなと思います。
特に第2版になってからは、第1部の基礎知識編が次のように体系的に整理され、より理解しやすくなっています。
第2部では法制執務用語(本書では「法令用語」と書かれています。)について紹介されていて、特に「及び」・「並びに」と「又は」・「若しくは」については階層構造が図示されて視覚的にも分かりやすく作られています。
(2)正木ほか『入門行政法』(有斐閣、2023年)
行政法の分かりやすい入門書です。詳しい書評を書いていますのでこちらも参照ください。
例えば法令を所管する立場になったとき、個別の法令の解釈は逐条解説(コンメンタール)と呼ばれる書籍を参考に、そのとき話題になっている制度を学びながら進めていけばいいと思いますが、行政法に共通の基本的な仕組みについては、それらの書籍を読むためのバックグラウンドとしてどうしても必要になります(「許可制」と「届出制」とか、共通的な知識として行政法で学ぶものがあります。)。
また、「法律の留保」、「委任命令」と「行政規則」といったトピックは、これらを知らないと、やってはいけないことをやってしまう可能性があります。
裁判になった場合のことを扱う行政救済法の部分も、指定代理人になる機会がなければ職務で触れることはあまりないかもしれませんが、判例を読むためにはどういう事件でどういう形で問題になったのかという、ことがらの構造を理解するために役立つので、最後まで読み通してもらえるといいなと思います。ただ、法案の立案担当(いわゆる「タコ部屋」)に配属された場合は、処分性の有無や行政不服審査の特例の要否などについて検討することがあるため、その場合は具体の事件に関わらなくても必須の知識になってきます。
(3)法学に係る入門的な書籍
(2)『入門行政法』を読んでいて難しいなと思ったら、法学の基礎知識をかじったほうがいいのかもしれません。その観点から3冊紹介します。法学の一歩目としてどれか1冊さーっと目を通してもらうと、その後が楽になるのではないかと思います。
①窪田『契約法入門─を兼ねた民法案内』(弘文堂、2022年)
法学の基本的なコンセプトに触れるには、民法を学ぶのが手っ取り早いと思います。本書は、表紙のとおり寝ながら読むことができて、契約、債権債務関係、債務不履行、代理、委任…などなどの契約法(と民法総則)といったトピックに触れることができます。
法学の取っ掛かりとして民法に触れることの効用として思うところをいくつか挙げます。
- 民法は、法令の典型的な構造として、因数分解のように各種制度に共通的なルールを「総則」として前にまとめる、各種制度についてもその中で共通的なものは同様に「総則」として前にまとめる…というパンデクテン方式の構造が顕著なので、マクロに条文を見るということの練習にもなるのではないかと思います。
- ある要件を満たすと効果が発生する(原則)、でも更に別の要件を満たすとその効果が消滅する(例外)といった、要件―効果、原則―例外、のような法的なものの考え方のトレーニングとして比較的取っつきやすいです。
- 例えば行政法上の「代理」や「委任」といった概念は、民法におけるそれとの対比で語られるため、民法の知識があると分かりよい部分がどうしてもあります。
②伊藤真『伊藤真の法学入門[第2版]』(弘文堂、2022年)
法とは何か、日本法の沿革、いわゆる六法の概要、法的三段論法、法解釈の方法、判例の読み方など、法学を学ぶに当たって最初に知っておくとよいことがコンパクトで平易に詰め込まれています。
③木村『キヨミズ准教授の法学入門』(講談社、2012年)
法的三段論法や、なぜ法規という一般的な命題を定める必要があるのか、日本法の体系、解釈とはいかなる営みか、といったトピックにやさしく触れることができます。
(4)その他職務で参照する法制執務・法学関係の書籍
法令を所管している場合は当該法令の逐条解説(コンメンタール)を参照することが圧倒的に多いと思いますが、一般的なものとして3点紹介します。これらも、自分で買うというよりかは職場にあって参照する、というイメージです(法令のお仕事をメインで生きていくのであれば、ワークブックは買っちゃってもいいかもしれません。)。
①法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務 第2版』(ぎょうせい、2018年)
法令の構造、改め文*7の書き方、それから法制執務用語についてQA方式で解説されています。目次も索引もしっかり付いているので、辞書的に参照することが多いです*8。
②大森ほか共編『法令用語辞典〈第11次改訂版〉』(学陽書房、2023年)
名前のとおりです。概念が問題になったときに、参照するとよいでしょう。第11次改訂版でついに税込み1万円を超えました。
③宇賀『行政法概説Ⅰ 行政法総論 第8版』(有斐閣、2023年)、宇賀『行政法概説Ⅱ -- 行政救済法 第7版』(有斐閣、2021年)、宇賀『行政法概説Ⅲ -- 行政組織法/公務員法/公物法 第6版』(有斐閣、2024年)
行政法のトピックが職務で話題になった際に、まず参照すべき書籍です。ただ、3冊もあってどこに何が書いてあるかなんていきなりは分からないので、まずは(2)のような薄い入門書をひととおり読み、必要になったときに適切な箇所を探して読んで理解することができる状態になることをまずは目標とすることをお勧めします。
また、判例や実際の立法例の紹介が豊富であるので、法案の立案担当になった際、具体の論点で参照すべき判例を知りたいときや、類似の制度を定める参考になる立法例を探したい、というときにも使えます。
④外山『法令実務基礎講座』(同文館出版、2017年)
本書の白眉は「第Ⅳ編 立法過程」にあります。立案担当者が法制局に通い詰めるいわゆる法制局審査は「予備審査」であって本審査は閣議請議された案文について行われそれに対して修正があれば職権修正が行われることや、国会に提出された法案の審議の流れなど、法案に係る手続の全体像を学ぶのに好適です。
3.政治…政府と政党政治
(1)飯尾『日本の統治構造』(中公新書、2007年)
日本の議院内閣制の歴史的な分析から始まり、省庁と与党の機能、他国の統治機構との比較などが書かれており、霞が関や永田町がどのような存在であるか、ということの理解に役立ちます。
(2)清水『平成デモクラシー史』(ちくま新書、2018年)
新書にしては重厚ですが、いわゆる55年体制の終わり、中央省庁等改革、2回の政権交代といった、平成の政治の歴史を通して学ぶことができます。どのような政党や議員の活動がこれまでにあって、政治にまつわる歴史的なできごとがあったのかを知るのに便利です。
(3)前田『女性のいない民主主義』(岩波文庫、2019年)
(1)・(2)は「日本政治」の歴史や統治機構といった実体的な面の記述が大ですが、こちらは「政治学」のトピックの入門書としておすすめします。
民主主義、福祉国家、選挙といったテーマについて、まず「標準的な政治学」として政治学の教科書で一般的な取り上げられるような定義・理論が紹介され、その上で、ジェンダーの視点を取り込んで標準的な説明を見直す形で記述が展開されていきます。
一般的な定義・理論に触れつつ、それを相対化して考える機会も与えてくれる、お得な本だと思います。
(4)浅野・河野編著『新・国会事典 -- 用語による国会法解説 第3版』(有斐閣、2014年)
国会の会期や、議員提出に係る法律案が予算を必要とするものであった場合の内閣の意見聴取の手続など、国会関係の制度が解説されており、基礎知識の確認や、たまに必要になる手続の理解のために参照することがあります。
これも職場にあるものを参照するイメージです。
4.EBPM…データ分析の手法
(1)伊藤『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書、2017年)
EBPMでよく出てくる、RCT、回帰非連続デザイン(RDD)、差の差法(DID)といったトピックについて、経済学の実証研究の例の紹介を通じて触れることができます。
自分で分析する機会は限られるかもしれませんが、どういう原理で分析ができるのかということをざっと理解しているだけでも違うと思います。
(2)山口『家族の幸せの経済学』(光文社新書、2019年)
結婚、子育て、保育といった、親しみやすいトピックについて、データ分析の実証研究の例の紹介がされています。実はEBPM入門としても読める、データ分析を使うとこういう政策提言ができるのか、ということを知れる本でもあります。
経済学というと需要曲線と供給曲線があって価格が決まる…微分すると予算制約の中での効用最大化が求まる…といったイメージがありますが(偏見でしょうか)、本書は経済学を次のように定義しており、このような見方を知ることで、ほかの本を読むときにも、政策の議論につながるような問題意識を持ちながら触れることができるようになるのではないかなと思います。
経済学は、人々がなぜ・どのように意思決定し、行動に移すのかについて考える学問です…
(山口『家族の幸せの経済学』(光文社新書、2019年)4頁)
(3)大竹ほか編『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞出版、2022年)
EBPMの歴史、手法、諸外国と日本における事例が紹介されており、EBPMとは何か、何ができるのか、どのような限界があるのか、ということを知ることができます。深く学んでみたいと思ったときの最初の一歩としてどうぞ。
5.仕事術…仕事の進め方、法令に携わる仕事をする人としてのノウハウ
(1)芳賀『知っていると仕事がはかどる 若手公務員が失敗から学んだ一工夫』(ぎょうせい、2023年)
平成25年に社会人になった若めの方が書いている本である、ということが特徴的だと思います。
そのようなわけで、比較的若手職員に近い目線で、実際に参考にしてやってみよう、と思わせられる文章が書かれているな、と思います。
上司から受けた仕事の指示がよく分からなければ聞き返した方がお互いハッピーである旨(24頁)、「自分なりのおもしろさを見いだしてみる」(40頁以下)、「相手に伝わる資料づくり」(116頁以下)など、実践的なtipsが詰まっています。
(2)塩浜・遠藤『自治体の法規担当になったら読む本〈改訂版〉』(学陽書房、2024年)
「自治体の」と銘打たれていますが、それに限らず立案・審査・相談対応を担当される方には役に立つ本であると思います。
第5章5「改め文に迷ったときは」(151頁以下)では、用例検索における「仮説―検証」という考え方と、その実例が紹介されています。第7章「法規担当の仕事術」(198頁以下)では法令を読み解いたり、法令に関する情報を調べたりするときのコツが書かれています。また、第8章「法律相談・訴訟対応」(226頁以下)では、相談対応に当たって、まず事実関係をしっかり把握すべきことなど、相談対応をするに当たってのスタンスが書かれてあり、参考になります。
おわりに
以上、新たに職員となった人のための(実務的)ブックガイドでした。
これに限らず、いろんな人がいろんなおすすめの本を持っており、聞いてみることで世界が広がったりコミュニケーションのきっかけになったりすると思います。特に所管分野についてはその道の人に紹介してもらうのが手っ取り早いです。
これらのような一般的な知識を頼りに、まずは1年間、生き延びられることを応援しています。がんばってください。
*1:実際のところ法学部を出ているからといって「及び」・「並びに」の使い分けを習っているかというと必ずしもそうとも限らないし、だからこそ白石『法律文章読本』(有斐閣、2024年)や、法制執務・法令用語研究会『条文の読み方 第2版』(有斐閣、2021年)が法令の構造や基本的な法制執務用語を解説してくれているのは貴重なのだと思います。
*2:令和2年に社会人になり、1年目は所管法令に係る質問に対する対応、2年目は法令と文書の審査、そして3~5年目で法令、行政規則、通知の立案等を主な業務としてきました。法的なドキュメントを書く/チェックすることが多かった一方、いわゆるポンチ絵(パワーポイントで政策等の概要を示したもの)についてはほとんど作成した覚えがありません。
*3:若手のうちは。年次が上がると作成された文書を使用して対外的に説明するということの比重が上がるのかなと思います。
*4:これを繰り返すうちにそのうち覚えるかというと、ある程度は覚えましたが、何度調べても忘れるものは忘れるし、年次を重ねるほど「これってどう書くんだっけ?」ってなる場合もあると思います。
*5:個別分野に応じてどの基本科目を学ぶ必要があるのかは、横田『カフェパウゼで法学を』(弘文堂、2018年)256頁の法学基本科目と応用科目の関係を示した図が参考になります。
*6:そこまでしなくても、最低限、所管法令については逐条解説をひもときながら、必要になったときに必要になった知識を定評のある書籍でかじっていく、ということができればいいかな、とは思います。
*7:既存の法律の一部を改正する法律案は、「「~~」を「~~」に改める。」といった形式で書かれており、これを「改め文」(人によっては「改(かい)める(文)」)と呼ぶこともあります。
*8:付き合い方のコツとしては、ここに載っていることは基本的な事項を確認するためのものであり、それがゴールである場合もあればスタート地点である場合もあるので、後者の場合はワークブックに答えを求めにいくというよりかは、用例を探しに行くためのヒントをここから得て、自分の頭で考えて仮説を持ち、官報検索や法令検索により用例を探す、というスタンスでいることをおすすめします。
正木ほか『入門行政法』(有斐閣、2023年)
はじめに
「法令審査係をやっているけど法学的な問題らしきものに当たったときのとっかかりが分からない」、「タコ部屋に配属されたけど法律事項とか処分とか言われても分からない、何見たらいいの」、「とりあえず行政法を体系的に勉強したい」という声を聞くことがあります。
行政法の代表的な書籍で実務でもよく参照されるのは宇賀『行政法概説』全3巻だと思いますが、いきなりあれを全部読めというのは苦行ですし、忙しい社会人が限られた時間で勉強するには大変なのかなと思います。
玉木ほか『入門行政法』(有斐閣、2023年)は、本文274頁で行政法の全体をやさしく概観することができます。電車の中でも手軽に読めるくらいの内容なんじゃないかなと思います。
1.「第1編 行政法の基本原則・行政組織法の基礎」
「行政法の存在理由」(第1章)、「法律による行政の原理」(第3章)、比例原則、平等原則や信義則といった「行政法の基本原則」(第4章)、「行政組織法の基礎」(第5章)について、その内容だけでなく意義(どうしてそんなことが必要なのか)も分かるように書かれています。
「第1章 行政法の存在理由」では、レストランにおける食品衛生を例に、行政による規制がどのような役割を果たしているのか、そして、なぜ行政活動を法的にコントロールする必要があるのか、ということについて述べられています。
行政法を学ぶ上での基本的な視座がここで示されており、問題意識を持ちながら読み進めていくのに資する記述だと思います。
「第2章 「行政」概念と行政活動のあり方」では規制にとどまらない行政の役割を示すとともに、その背景にある国家観や、NPMの時代を経た後の国家の役割の方向性として、「国家行政には社会保障やインフラ供給において守るべき最低限度の水準(ナショナル・ミニマム)を確保する役割が残されている」(pp10-11)という「保障国家論」が示されています。
行政法の勉強をしていると処分性の定式なんかが中心になって、契約・計画・補助金といった調達行政や誘導行政についてはオマケみたいな感じになりがちですが、それらの分野についても一つの視座から学ぶ契機を与えてくれます。
「第3章 法律による行政の原理」及び「第4章 行政法の基本原則」では、抽象的なトピックをその拠りどころや具体的な記述で説明されるとともに、憲法と行政法の関係(p14)のような、学びの道しるべになるようなコラムもあります。
「第5章 行政組織法の基礎」では、行政主体が法人格を有すると言われるときっと誰もが日本史で習った「国家法人説」との関係への疑問がわくと思いますが、コラムで触れられています。
あと、実務で決裁の際に必須の概念である「専決」についても最後にちょろっと触れられているので、決裁に当たって一般に決裁規則や文書取扱規則と呼ばれるものの意義を理解するのに役立つと思います。
2.「第2編 行政過程論」
第1章から第3章にかけて行政行為(第1章)、行政基準及び行政計画(第2章)並びに行政契約及び行政指導(第3章)といった行政の行為形式が、ついで行政法の実現手法(第4章)、行政情報(第5章)及び行政法と私人の関係(第6章)について触れられています。
「第1章 行政行為」では、法律が要件と効果からなっていること、という基本的なところからそれぞれどのようなことが論じられるかを書かれています。
ここでも、例えば不利益処分における理由の提示の意義として挙げられる「不服申立ての便宜」については、「早い段階で不利益処分の理由を示すことで、争点を明確にし、名宛人と行政庁とで噛み合った議論を展開してほしいという訴訟経済上の意図が込められている」(pp55)といった形で、言葉の意義が分かるような説明がされています。
そのほかにも、限られたページ数でありながら、処分性の論点の難所である土地区画整理事業について図表を用いて解説している(p86)、要綱行政が活用されてきた歴史的な背景(コラム2-16宅地開発指導要綱、pp99-100)など、随所に学習への配慮が見られます。
ただ、情報が詰まっているだけあって一回読んだだけではなんのことやら、という箇所もあるかもしれませんが、2~3回読めば誰でも分かるのではないかと思います*1*2。
3.「第3編 行政救済法」
(1)「第1章 行政救済法総論」と「第2章 行政訴訟法」
この箇所については、学習者のためのガイドが充実しており、この部分を読むことを通じて、教科書や判例のような法学的な文章を読むときの考え方を習得するのに必要な考え方が得られると思います。
例えば「第1章 行政救済法総論」では第2編の行政過程論との関係が触れられており、ここの解説を知った上で判例を読めば、行政過程論・行政救済法との関係でどういう位置付けの問題が論じられているのかということを意識しながら読むことができるようになると思います*3。
ほかにも、
- 抗告訴訟の類型について、「処分・裁決に対してどんな結論を求めているのか、どのような段階でどんな望みをかなえようとして訴訟を提起するのかによって区別されている」(p155)として、いろいろあって複雑な訴訟類型を見ていくための基本的な視座を最初に示している点、
- 原告適格について「これらはかつての学説対立を知っていると、より理解が深まるので紹介したい」(p163)のように講義チックに記述の意義を示している点、
- 仕組みが複雑な申請型義務付け訴訟について、「「2段ロケット型」の構造」として、条文の構造を意識しながら読むように差し向けているところ(p191)
など、読み手に向けてのガイドが充実しています。
(2)「第3章 行政上の不服申立て(行政不服審査)」と「第4章 国家補償法」
「第3章 行政上の不服申立て(行政不服審査)」については、総務省行政管理局で令和3年度に開催された「行政不服審査法の改善に向けた検討会」との関係で、制度の現在地を知るのに必要な情報が盛り込まれていると思います。
総務省|行政不服審査法の改善に向けた検討会|行政不服審査法の改善に向けた検討会
本書p225に掲載されている総務省の行政不服審査法パンフレットは、「行政不服審査法の改善に向けた検討会最終報告書(令和4年1月)」において「行審法の審理手続の全体像を分かりやすく案内するパンフレット」を作成するとされた(最終報告書p32)ことを踏まえたものと思われますが、多様な主体が関わって複雑な行政不服審査について流れ図で解説されていてとても分かりやすいです。
総務省|行政不服審査法(行政管理局が所管する行政手続・行政不服申立てに関する法律等)|行政不服審査法の紹介
また、「コラム3-10付言の重要性」についても、「答申における付言については、行政運営の問題提起等の観点からなされるものであり、「行政の適正な運営を確保」することを目的とする行審法の趣旨を踏まえれば、付言の相手方である審査庁又は処分庁は、付言に対しては、適宜の方法により真摯に対応すべきであり、現に行政運営の改善につながった例もある」(最終報告書pp50-51)とされており、存在だけでも知っておくとよいのではないかと思います*4。
「第4章 国家補償法」は国家賠償法などを扱っていますが、コラムが充実していて、具体的な問題や、理論的に難しい話(例えば相当補償説と完全補償説の関係を解説する「コラム3-21判例の整合的な理解」(pp268-269))についても議論が展開されています。令和の判例についても複数触れられており、一通りのトピックについて現在地を知るのに役立つと思います。
おわりに
本書は、行政法の全体像について、限られたページ数で学習者への配慮もありながらやさしく解説されており、社会人になってから行政法を学ぶ必要に駆られた方のための選択肢の一つになると思います。
また、本書の随所に示されている学び方のTipsみたいなものを咀嚼すれば、さらにほかの法学書を読むとなった際のための栄養になるのではないでしょうか。
就職してから行政法で苦しむひとを減らすため、本書を推していきたいです。
*1:法学の書籍は「「初見殺し」のトラップがいっぱい」であること、周回ゲーであること、書籍のタイプにいろいろあることについては横田『カフェパウゼで法学を』(弘文堂、2018年)「⑪インプットの心がけ―――<鳥の目>と<虫の目>を使い分ける」を参照すると、法学の書籍との付き合い方の参考になると思います。
*2:ただ、最判令和3年3月11日民集75巻3号418頁を紹介している箇所(pp75-76)はどのような点で委任命令が委任の範囲を超えたかの説明もなく、さすがに前提となる仕組みも難解なので、「ふーん」って読むしかない気がしますが。裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
*3:個人的には、これこそが法学を学ぶことの効用であると思います。どういうことかというと、問題状況を法的枠組みに基づいて分析して、どのような点でなぜ今話題にしていることが問題になっているのか、ということを検討することができるようになる、ということが法学を学ぶことの効用だと思っているからです。
*4:検討会を踏まえた論究ジュリスト38巻の特集「行政不服審査制度の見直し」でも、「対話の促進」という視座で付言の機能に注目するコメント(大橋洋一、pp147-148)や、「今後の行政不服審査会等の在り方を考えるうえでも大きな一歩といえよう」とのコメント(折橋洋介、pp158-159)がされており、今後の行審法の運用のために知っておくといいトピックであると思います。
行動経済学でコロナ禍を振り返る~大竹文雄『行動経済学の処方箋』
新型コロナウイルス感染症は,ワクチンや治療薬といった病気そのものへの対応という課題だけではなく,社会としてどのように感染症に向き合うか,一人ひとりの個人はどのように行動すべきか,そして政府は社会に向けてどのような介入を行い,あるいはどのようなメッセージを発するべきかという課題ももたらしました。
大竹文雄『行動経済学の処方箋』では,有識者会議の構成員である大竹先生が行動経済学の観点から感染対策やコロナ禍における社会の動きについて解説をしています。
個人的におもしろかった点をかいつまんで紹介します。
第1章は行動経済学でおなじみのバイアスとナッジについての解説です。
この章は内容が詰まっているので,なじみがない方は同じ大竹先生が岩波新書から出している『行動経済学の使い方』を先に一読することをおすすめします。バイアスとナッジ・経済社会での応用例・公共政策への応用例についてまとまっています。『使い方』の第2章では,名前のとおり,どのような場合にどの手法を使うのか(何がボトルネックになっていて,それに対してはどの種類のナッジによる対策が有効なのか)ということがまとめられており,公共政策の観点から一般教養的に行動経済学をかじってみたいというニーズに応える内容と思います。
第2章「行動経済学で考える感染対策」は,感染症対策における政府の活動についての理解を深めてくれます。個人的には,コロナ禍が遠い日のことになる前に見ておきたい,この本の一番の読みどころです。
例えば,新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の見解」で出された以下のメッセージが,行動経済学の観点からどのように説明されるか。
全国の若者の皆さんへのお願い
10代、20代、30代の皆さん。
若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低いです。
でも、このウイルスの特徴のせいで、こうした症状の軽い人が、
重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性があります。
皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、
多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。
あるいは,自粛について「目標の70%が達成されています」「目標の30%が達成されていません」,どちらのほうが自粛を促すのに有効か。
当時の政府は,どのようなメッセージを発することによって行動変容を促そうと図っていたのか,ということを理解するための材料になると思います。
第3章・第4章は,コロナ禍における経済活動・テレワークについての分析です。
感染症においては,感染者数が指数関数的に増加することを直感的に理解することができないので,「70の法則」を使って直観的に理解しやすくすれば,行動変容を促す対策が速くできるんじゃないかという提案がされています。これもボトルネックを発見して対処するひとつの在り方かなと。
また,社会人になって1週間も経たないうちに緊急事態宣言→テレワークの日々を経験した身としては,同僚と一緒に働くことで暗黙知の共有などいい影響を受けて生産性が上がるという「ピア効果」についての記載に興味を惹かれました。コロナ禍をきっかけにテレワークの存在がデフォルトになっていくとすれば,それを前提にした職場のデザイン・交流の機会の確保が,人的資本の蓄積のための戦略として必要になっていくのではないでしょうか。
第5章は経済についての一般的なイメージを経済学の観点から論評します。社会的な動機で働く人もおり,それに応じた給料の設計があるという話は,本文でも触れられていますが,公務員の給与制度の議論にも参考になるトピックと思いました。
第6章は,人文社会科学がなぜどのように役に立つのかということを経済学の観点から論証し,「反事実的思考力」という観点から本を読むことの効用を紹介しています。
最後は神社やお寺が小さい頃に近所にあったということがソーシャルキャピタルの形成にそれぞれ与える影響の違いについての論文の紹介ですが,これはふつうにおもしろかったです笑
新書でありながら参考文献の紹介がしっかりなされているのも勉強のためにいいですね。
政府の対策に一区切りが付けられるタイミングで,振り返りとしていかがでしょうか。
はじめに
はせにゃん(@hase_nyan_amai)のブログです。
勉強(法学,経済学といった社会科学),読書,趣味(あまいあまい,音楽)について書くと思います。
もとよりTwitterでこのように読書の記録などつぶやいているところ,Twitterに投稿したものは流れていってしまうので,まとめて見やすくしたいと思ったものを記録したいというのがこのブログの趣旨です。
なんで急にホットチョコレートつくったかっていうと、これ読んでたらがまんできなくなっちゃったの(っε・`*)
— はせにゃん (@hase_nyan_amai) 2022年8月7日
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また,勉強の記録としても,自分の足跡として,あるいは同じ道を歩く誰かの役に立てればということで,残していければと考えています。
なお,このブログに記載する内容は,所属組織の見解とは無関係であり,もとより全て個人の見解です。
よろしくおねがいします。